増子様

浦山クライミングスクールに参加してくださっている増子さんに、今までのクライミングを振り返ってその「コツ」をを語ってもらいました。

谷川岳一ノ倉沢に魅せられて ・・・増子征史(71歳
◆“近くてよい山”と称され、多くのクライマーに親しまれてきた谷川岳は、標高2
000mにも満たない中級
山岳でありながら、穂高岳、剣岳と並ぶ「日本三大岩場」の一つだが、どことなく陰
惨なイメージが漂う。
アルペン気分が味わえる剣、穂高に対し、谷川岳はひたすら“悪い岩場”という印象
が強い。
一ノ倉沢の出合に立ち、巨大な屏風のように聳え立つ岩の壁、高度1000mの一ノ
倉沢。目の前に
覆いかぶさる悪相の岩壁群を見上げた時に感じる身震い(=緊張)と威圧感。それが
一ノ倉沢の魅力。

◆伏線:「木々に覆われた道を歩いていくと、突如高さ1000mの岩壁が目の前に
現われる。
その光景に誰もが息をのみ、言葉を失い、ぽんかんと口を開け、驚き、感動する」。
その、若き日の強烈な印象が海馬(脳裏)に焼き付いていた。

◆クライミングに熱中するきっかけ
*K2トレッキング(25日間)参加が起点:♪思えば遠くに来たもんだ この先ど
こまでゆくのやら♪
参加条件の「岩稜縦走数回」をクリヤーするため、西黒尾根・不帰キレット・八峰キ
レット・大キレット・
西穂―槍等々を縦走して経験を積み岩稜に親しむ。岩との親密度が高まる。
*日和田山で初歩的なクライミング技術を「登山教室Timtam」から学ぶ。クライミン
グが面白くなるも
一向に上達せず。このままでは終われない。本気度に火が灯く。そして伏線が脳裏に
よみがえった。
*帰国後、目標を南稜に設定しインターネットでガイド探し。2008年8月、雨中
の日和田山で浦山CS
と運命的?な出合い。的確な指導(心=精神・技・体)・叱咤激励・登攀力チェック
と弱点指摘・登攀力
アップの岩場選定等々、教えを忠実に実行。
偶然にも一ノ倉沢に精通し厳冬期の初登攀記録まで持つ浦山CSに出会えたのは強
運。

◆登攀の軌跡
09年05月 衝立岩中央稜 ・・・昨年から数え雨4連ちゃんも、5度目の正直で
念願叶う。
懸垂下降半ばに降り始めた雨は⇒みぞれ⇒雪舞う強風になるも、「こんなことは沢山
経験しているッ!
心配するな!」の先生の一言で落ち着いて行動。只では帰してくれない「一ノ倉沢の
掟」なのか。
目がくらむような、足がすくむほどの高度感には、クラクラッ。
09年06月 南稜  
09年08月 中央カンテ
10年06月 中央カンテ
11年05月 変形チムニー
11年08月 2ルンゼ~Bルンゼ
11年10月 3ルンゼ
12年07月 衝立岩正面壁 ダイレクトカンテ ・・・11年からアブミ訓練開始
12年08月 滝沢下部2P目撤退(確保支点脆弱)⇒2ルンゼ~Aルンゼに転進
その都度、初めて目にする景色を追い求めてきたが、ドームとマッターホルン状岩峰
に挟まれた
Aルンゼ上部の悪絶な形相には感動。稜線から見えないマッターホルン状岩峰東側は
衝立岩のように
切れ立っており、もの凄い。ここにもルートが拓かれたとはとても思えない。
Aルンゼは2ルンゼよりも難しく感じた。ザイルを背負っての登攀は初めてだが、
アップアップだった。

◆「一ノ倉沢ズンドコ節」の6番
嫌な草付慎重に越せば やっと飛び出す国境稜線 固い握手に心も霧も 晴れて見え
るはオキの耳
(ドコズンドコズンドコ)・・・国境稜線に抜けた瞬間の充実感・高揚感を、この替
歌がよく表している。

◆気象変化:これには降参、ギブアップ!
新潟・群馬県境にある上越国境は日本海側にも太平洋側にもさえぎるものがないの
で、西風も東風も
直接あたって雨を降らせる。台風でもない限り、この山の気象を事前に予測すること
はできない。
太平洋・日本海の気象が複雑に影響しあいながら天候がめまぐるしく変わる山なの
だ。
麓のみなかみ町や湯沢町の予報がアテにならない山。独特の気象は「谷川岳低気圧」
と呼ばれ、予報に
関わらず、岩場に立ってみないと分からないケースが多かった。それほどにこの山の
天候は不安定で、
経験に裏打ちされた浦山CSの観天予報がイチバン正確であった。

◆トレーニング
*年二期制(5―10月は登山・クライミング、11―4月は長距離ウオーキング=
脚作り)を基本とし、
全身持久力(含む脚力)・筋力・登攀力・柔軟性・俊敏性・栄養・休養を大項目し
て、中項目で具体的な
メニューに落とし込み、筋トレ(ジム・週2回)、坂道アップダウン/中長距離歩行
で脚トレ(週3―4回)、
時折にはクライミングジムでの練習などを行なってきた。
*トレーニング効果のビジュアル化:縦走登山・坂道アップダウンや中長距離歩行
等々、常に強度アップ
を意識し、その進化を測るために時間計測をしてきた。ジムの筋トレ強度もそうで
あったが、
進化は遅々として進まず。でも続けていると忘れたころに進化。“継続は力なり”を
常々体感。
*目標に呼応したメニュー変更も随時行ってきたが、クライミングの上達関連では、
ある本に「効果的な訓練は、引きの力と万力のようなグリップ力を発展させることで
ある。あなたの弱い所
を補強するような、知的な強度訓練を実行しなさい」とあった。我が意を得たり。
懸垂ゼロ回でクライミングジムのような練習環境にも通わず、ムーブって何?の私に
とり、先ずは基礎と
なるクライミング4筋の強化を課題とした。指屈筋・上腕二等筋・大胸筋・広背筋の
強化をジムメニューに
追加し少しづつ筋力が増してきたことが大きく後押ししてくれた。岩は脚で/足で登
れと言われるが、
爺クライマーにとってはカラダを押し上げるのが先。この考えで必要な筋力を鍛えて
きたのは正解だった。
その分力任せな登攀は否めず、ムーブなどお構いなしの自己流。お陰でレべルアップ
の気配はないし、
気にもしていない。本ちゃんは、クライミングジムで登るのは違うとの感覚を拭いき
れない。

◆目標を持つことの大切さ
*トレーニングを続けられたのは年度目標が明確であったことだと思う。加齢にあが
らいたいのか年輪を
刻む毎に(何故か)難易度も高くしたが、カラダは鍛えれば報いてくれるとの運動生
理学の観点からそう
した。つらい時でも、これは目標実現のためにやっているんだと脳に言い聞かせ歯を
キリキリさせてきた。
「何のために」の目的が明快だと結構頑張れる。数十キロの長距離ウオーキングで
も、
♪いつか着く~♪と脳をダマクラシ、無心・無我の境地を求めてよく歩いた。が、煩
悩多く坊主の境地には
遠く及ばずも、漫然とテーマを決めずに行っていたら、とっくに頓挫していたと思
う。

◆最後に
*我が人生第9コーナーも、この歳になっても若き日の想いを実現させて頂いた浦山
CSには言葉が見つ
からないほどに感謝。これ程までに人に達成感・充実感を味わえさせれて、価値の高
い仕事は他に思い
付かない。『ありがとうございました』